図1は、220年8月の静岡県沖地震(M6.5)を発生させたと思われる地震の目です。深度は100kmまでとっています。この本震が白い星印で示されています。




 もし、この付近にマグマをたっぷり溜めてある火山があれば、その静岡県沖地震の応力変化をうけて地震から何年後に噴火するか計算したことがあります(木村、1994)。それに基づけば、例えば、ここから富士山までは80km程ですから、マグマがたまっていれば1年以内にも噴火の可能性があります。

 富士山は、従来は休火山と言われてきた火山です。だれもそんなすぐにも噴火の可能性があるとは考えていないと思います。この辺を睨みながら、付近の火山を見てみましょう。今回の本震の位置を噴火口の位置と置き換えて火山の周辺を見ると、なんと、大地震前と同じような地震活動のパターンが見られます(図2)。



 図2では、三つの火山について、すべてM6.5以上の地震の目を見つけると同じ手順で目を見つけてました。なんとまったく同じように”目”と思われるものが見つかりました。大きさもほぼ同じです。大地震の目の場合は、目が発生すると、その付近に大地震の発生する可能性が強いとともに、本震の発生時期も推定することができることはこれまで試みてきたとおりです。

 そうであるとすると、火山の目によって噴火(主噴火=P2噴火=概略大噴火)の時期が推定できるかもしれません。図2の3つの火山のうち、大島と三宅島は、現在活動的な火山ですが、富士山はここ300年ほど噴火を休止しています。通常地震活動からはその違いは歴然で、火口付近にM3.5以上の地震活動がほとんど見られません。

 ところが、山体からやや離れると一部に他の2火山とよく似た地震活動の領域が認められます。この状態は、地震の輪の中に認められる以上活動域である地震の目に相当するものと思えます。




 富士山の北東部のこの異常地震活動域を地震の目(火口からある程度離れた領域)と考えると、その発達段階はどのようなものか、解析してみました(図3)。大地震における目内の地震活動の時系列にそっくりです。

 通常地震回数が階段状(ノコギリの歯状?)に段階的な発達を示しますが、地震のE1−E3と同様3段階に分けられそうです。これを火山(Volcano) のVをとってV1, V2, V3に区別しました。大地震の場合は、E1ーE3が現れると間もなく大地震が起きることがわかってきました。最近では、それにより数年の誤差で大地震発生年を推定することも不可能ではなくなりました。噴火の場合もそうであると、これまで、一部の火山を除き不可能に近かった噴火時期の予知に貢献することになります。




 図4は、同じ目の活動ですが、図3のM2以上に対してM0.1以上の地震活動を示した資料です。現実には、1988年から0.1以上の地震が記録されるようになり、回数がぐっと増えます。それ以前は精度の問題で採用されていなかったのかもしれませんが、1996年以降2008年現在小さな地震回数が実際に増える傾向にあることはまちがいなさそうです。これはマグマの上昇を示している可能性があります。するとその先は噴火となるのでしょうか。


 

 図5は、地震の目の発達段階を示しています。1976年に後の目にあたる地域にある程度の大きさの地震が群発しました。それが目の立ち上がりと判定されました。1983年にはM6.0)という大きな地震が発生し、その火口方向で1966年にM5.3の地震が発生しました。図3や4の、地震回数の段階を区別した地震です。これは、地殻のプレスリップがその方向に起こっていることを示唆するようです。1995年の兵庫県南部地震(M7.3)の前に生じた地震活動のパターンと酷似しています。その際は、矢印の方向で本震が発生しました。しかし火山の場合は、マグマだまりが圧縮されて噴火が起こるのではないでしょうか。




 噴火であるとすると、火口下のマグマの動きを反映しやすい地震活動(一般に規模は小さい)が気になります。そこで作製したのが図6です。これは、富士心火口直下および近傍の通常地震活動を示します。これも、地震活動が階段状に段階的に増減していく様子が明瞭です。ただしここでは、発達段階の区切りの時期が、図5およびそれ以前に示した、”火山の目”の活動の区切りのピークが、古い方から7年、6年、4年と、4年から7年ほどずれています。これにより、火口から遠い”目”の地震活動が、数年ほど火口の下の活動より早いということがわかりました。




 火口下と火山の目域とのずれは、図7で説明できそうです。すなわち、地下深くからあがってきたマグマは、Bのマグマだまりにたまります。そこが一杯になると周囲の壁を押しひび割れを起こし火山の目を作ります。

 やがて、上の地殻を破って上昇すると、火口下の地震が増えます。そのため、火山の目でまず地震回数が増え、やがて遅れて火口下でより小さく深度の浅い地震が発生します。その時間差は、平均6年と算出されます。この場合問題は、火山の目の発生位置は、地殻の深いところだと言うことです。すなわち、まだマグマは深くて、今回の目の活動ではマグマが地表に達せず、噴火に直結しないのではないかという疑問がわきます。


 


 しかし、図8を見ていただきたい。三宅島の1983年噴火の前、1982年までの例です。資料の精度は悪いのですが、火山の目がやはり深く、マグマだまりの位置が深かったことが予想されます。このように富士火口の下と同じように深くとも、この翌年の1983年には溶岩を流出する大噴火を行いました。私が当時事前に火山学会誌で予測していた噴火のひとつでした。

 この例からみると、”目”が深いから噴火は先と言うことは簡単に言えないようです。その理由は、図8のように、溶岩を満たしたマグマだまりが、深いところばかりではなく浅いところにもあり得るからです。




 図9は、同じ三宅島火山の例ですが、2000年噴火の前年までの地下の様子です。火山の目が浅く、しかもあまり発達していません。火山の目の下部に活動がやや活発な部分がありますが、この辺は、溶融マグマがたっぷりとたまっていると言うよりは、固化しかかっていて、下からは、ガス成分がより多く上昇していて、壁への圧力は前回に比べて低いことが予想されます。事実、この翌年の噴火は、ガス抜きの爆発が主で、火口底は巨大陥没をしたのが特徴の活動でした。現在でもまだ硫化水素の放出が続いています。


考察

 活動的火山の地震活動のパターンは、大地震発生前の応力状態を示すパターンと酷似していることが明らかになりました。そして、火山噴火前には、”火山の目”あるいは”噴火の目”とも言うべき応力的な特異域ができます。その目の中の地震発生の時系列パターンと火口下の通常地震活動パターンとの比較により、大噴火の時期が割り出せる可能性がでてきました。

 それによると、富士山に関しては、すでに活動期に入っている可能性があります。


文献

木村政昭(1994):火山噴火と地震の時・空関係ー日本付近の大地震についてー。京都大学防災研究所年報、37(B-1), 293-317。